体温計価格の高騰とインフレ経済



体温計が買えません(2020年4月)。

新型コロナウイルス対策で出勤前の検温を求められ、慌てていくつかのドラッグストアやスーパーを探してみたのですが、体温計の在庫がどこにもないのです。同様の人が多数いるようで、店員に「体温計はありますか?」と聞いている人を何度も見かけました。

買えないものの希少性と市場価格

体温計の在庫がない状況は、店頭だけでなく大手サイトでも同様です。価格こそ通常価格が表示されますが、在庫なし/入荷未定の状態が続いているのです。

一方、簡単な審査で自由に出店できる通販ショップモールサイトでは多数の体温計が販売されています。ただ、その「市場価格」は15000円(通常価格の10倍以上の商品も多い)。在庫数の明示はありませんが、比較的短期で出荷できるとする店が多いようです。

「普通の店」「普通の価格」で買えない商品が、とんでもない高値で「よくわからない店」で売られる。今回の新型コロナウイルス騒動下のマスクや体温計に限らずよく見られる光景ですね。

手に入りにくい、需給関係が需要側に偏っている「売れる商品」をとにかく買い集めて高値で売る。これはある意味で「市場経済」の基本ともいえる行動です。普段は好ましくない行動として隠されている人間の「本性」とも言えるでしょう。

売る側にしてみれば、「手に入りにくい商品を困っている消費者のために確保し、提供させていただきます。市場が混乱し入手が困難でしたので、普段より高めの価格にせざるを得ませんでした」というわけです。

体温計から見るハイパーインフレ

供給に対する「不安」が広がる中で需要が増えて、市場で「現実に入手可能になる」値段が短期間の間に10倍になる。まさに「ハイパーインフレ」です。

新型コロナウイルスのパンデミックは、供給側に甚大な被害をもたらしました。また「供給に対する不安」が広がったことで、局所的な品不足とハイパーインフレが散発的にみられる状況になっています。

世界的な生産・供給網が整備され「安い商品が大量に出回る」状況になったのだから、もうインフラは起こらない。私たちは、そうした「グローバル経済の常識」は、有事にはあっという間に崩れることを身を持って体験しつつあるのではないでしょうか。

今回の新型コロナウイルス禍は、世界の流通を大きく変える可能性があると指摘されています。具体的には、より「内向き」あるいはブロック経済への復古を強めるのではないかという懸念が高まっているのです。

「何か」あった時に困るから、ローカルな供給を強化しよう。そうした動きが強まれば、これまでのように「最適な生産地から安く買う」デフレ推進型のグローバル経済は大きく変質していくことでしょう。

その先にあるのは、「地産地消」型の経済再建か低迷する経済とインフレが同居する世界的なスタグフレーションか。サプライチェーンの戦略的な見直しが必要な時代に突入しそうですね。