アメリカの利上げとFX戦術

アメリカ(FRB)の利上げで米ドルの金利が上昇する局面では、「米ドル(アメリカ国債)の投資収益」が改善する可能性が高くなります。FXであれば、米ドルと他通貨との「金利差」であるスワップが引き上げられ、トレーダーの目を引き付けることでしょう。

利上げはリスクオンへの警告

ただし、利上げの目的は「他の資産から米ドル(国債)への資金移動を促す」ことです。本来の意味ではインフレ予防、現状においては金融市場における投機的なバブルを抑制するために、金利を引き上げ過熱感を「冷ます」。「金融引き締め」効果を浸透させていくわけです。

金融市場に対する引き締めである以上、利上げは資産価格に対してはマイナスの影響を与えます。特に基軸通貨である米ドルの利上げは、アメリカ国内だけでなく世界全体の金融市場に決定的な影響を与えることになります。

アメリカ国債(米ドル建て債券)という究極の「安全資産」が金利上昇による価格低下でお買い得になれば、世界中の「リスク資産」の魅力が相対的に低下しますからね。さらに、米ドル金利が上昇するということは米ドルの調達コストが上昇することをも意味します。

「高金利通貨」は真っ先に影響を受けますし、新興国の株式市場からもアメリカへの「資金回帰」が促される場合があります。

FXでいえば、高リスクの豪ドルやランドよりも「高いスワップが受け取れるようになった米ドル」を買いたくなる、というわけです。

高金利通貨が売られ、株式市場への売り圧力が高まる……まさに「リスクオフ」そのものですね。もっとも、FRBの利上げはインフレ(過剰な投機的バブル)の予防手段ですから、リスクオンムードが後退するのはまさに「狙い通り」なのですが。

アメリカの金利が上がって金融市場がリスクオフに向かう。そうした局面で注意したいのが、「逃避通貨」である円の動きです。リスクオフになると、多くの場合は米ドル以上に円が買われ対米ドルでも円高になりますが、それはアメリカの金利上昇局面でも変わりません。

アメリカの利上げは米ドルの「買い」要因ですが、金融市場でリスクオフムードが高まればそれが「米ドルよりも円を買う」動きにつながる可能性が高いと言えるでしょう。

特に、最近はFRBや日銀をはじめとする中央銀行が金融緩和の手段としてゼロ金利に加えて大規模な「資産買い入れ」を行っています。この資産がどうなるかというと……金融緩和の「出口」である金融引き締め局面では、資産買い入れの停止や放出が行われるわけです。

資産市場ではこれまで「買い手」であったFRBが新規の買いを控え売り手に回るわけですから、金利引き上げとのダブルパンチになりますね。金融市場では資産価格の「先安感」が増幅され、波乱含みの展開がみられることもあります。

2013年には、FRB議長(当時)の「金融緩和の縮小」を示唆する発言をきっかけに世界の株式市場が暴落する局面がありました(バーナンキ・ショック)。

アメリカ利上げ時のFX投資戦術

以上のことから、アメリカFRBが金融引き締めを行っている局面では、FXの投資戦術としては以下のような方針が考えられるでしょう。

まず、米ドルは基本的に「買い」です。資金移動の「第一候補」で、スワップによる収益も期待できますからね。

ただし、米ドルを買うために売る(借りる)通貨は要注意でしょう。日本からの投資だと超低金利の上に自国通貨でもある円を売ってドルを買いたいところですが、円は金融市場の混乱時に「資金移動先」になる可能性が高い。円売りポジションを膨らませていると突発的な円高で損失が膨らむリスクがあるのです。